診療案内

糖尿病診療

糖尿病診療について

日本の糖尿病患者は糖尿病予備群とあわせて約2,000万人と推計され、中高年以降に多い傾向があります。

糖尿病による高血糖状態が続くと、糖尿病固有の合併症である網膜症・腎症・末梢神経障害を発症し、更には透析、失明や、下肢切断に至ります。また、狭心症や脳卒中などの脳血管疾患の発症・再発リスクや、新型コロナウイルス感染症などの感染・重症化リスクが高まります。

私は、糖尿病を含む「代謝・内分泌疾患」を専門とする内科医です。これまで母校である聖マリアンナ医科大学の代謝・内分泌内科医局員として15年間、その内大学院卒業後10年間は助教として糖尿病の研究に携わり、また、近年は日本糖尿病学会研修指導医、日本内分泌学会の内分泌・代謝科指導医として専門医育成の一端に関わって参りました。そして、2020年からはパークシティクリニックの院長として、糖尿病を含む生活習慣病の治療を中心に診療にあたっています。

糖尿病は、自覚症状を来すことが少ない発症から5年間までの診断と適切な治療が、その後の合併症の発症防止に大きく影響する病気です。ぜひ、当院への通院を通じて糖尿病の知識を深めていただき、不安を解消し、快活な生活をお過ごしください。

糖尿病とはどのような病気

糖尿病が最初に書き記されたのは紀元前1,500年頃の古代エジプトの処方集である“PapyrusEbers”と言われています。また、紀元前6世紀頃にインドのSushrutaは「スシュルタ集成」に糖尿病と思われる病気を記載しています。古代インドでは糖尿病を「蜜の尿」と呼んでおり、糖尿病患者の尿は甘いことが指摘されていました。

さて現在、糖尿病は「体内のブドウ糖を有効に使えずに血糖値が高くなった状態」と定義されています。これには、「インスリン」というホルモンの作用不足が関係しています。

私たちが摂る食物の栄養素には、炭水化物・脂質・たんぱく質がありますが、多くの人はこの中で炭水化物を最も多く摂取しています。主食であるごはん、パン、麺類に含まれる炭水化物は消化によってブドウ糖となり、小腸から吸収されると血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなります。次に、血糖値の上昇を膵臓が感知するとインスリンを血液中に分泌します。インスリンには血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪に取り込ませる働きがあるため、健康な人の血糖値は食前後で70-140mg/dLに保たれます。

尚、血糖値100mg/dLは血液1dL(100mL)中にブドウ糖が100mg溶けている状態です。成人の体内で循環する血液量は約5Lですから、健康な人で5g前後しか、血液中にブドウ糖は溶けていないことになります。

しかし、糖尿病の人ではインスリンの作用不足によって血糖値が増加します。インスリンの作用不足には、インスリンの分泌自体が少なくなるタイプと、インスリンの効果が少なくなるタイプがあります。そして、インスリン分泌が全く無くなる場合を「1型糖尿病」と呼び、インスリンの分泌と効果の両者が少なくなる場合を「2型糖尿病」と呼んでいます。また、肝臓・膵臓の病気や、インスリン以外のホルモンに係わる病気、治療薬によって引き起こされる二次的な糖尿病や、妊娠中におこる糖尿病もあります。いずれの場合も血糖値の増加が、全身にさまざまな影響を与えます。

糖尿病の検査

糖尿病の診断や治療の評価には、採取した血液や尿によるさまざまな検査が用いられています。血糖測定の以外の例として、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)や尿糖の測定が挙げられます。

HbA1cは、過去1-2か月間の血糖値の平均を反映する指標で、糖尿病の診断や治療の効果を見立てるのに役立ちます。HbA1c6.5%以上かつ空腹時血糖値126mg/dL以上(食後血糖値では200mg/dL以上)の場合に糖尿病と診断されます。

尿糖検査は試験紙を用いる方法が一般的で、グルコースオキシダーゼ法(試験紙法)と言います。尿糖は血糖値が160-180mg/dL以上で出現し、試験紙法では陰性から3+までの段階評価が可能です。患者さんが食後に来院された際に血糖測定と組み合わせることで、食後の血糖変動を推測する上でも役立ちます。

また、糖尿病の合併症予防にはHbA1c値の改善のみならず、血糖変動を解消することが重要です。そのため、最近では最長2週間に渡り血糖値を推計できる持続糖濃度測定器(CGMS)を活用する機会が増えてきました。検査に用いる500円玉大のセンサを上腕に装着する際の疼痛は軽微で、測定中の違和感や日常生活に制限は無く、入浴や運動も可能です。24時間の血糖推移を可視化することは、食生活の見直しに有用なだけでは無く、治療薬による就寝中や無自覚性の低血糖を検出することが期待出来ます。

CGMS検査の保険適応には施設基準が設けられております。同検査が必要な場合、当院の患者の皆様には関東労災病院などの、当院と糖尿病診療において緊密な連携を図らせて頂いている施設をご紹介いたします。

糖尿病の合併症

糖尿病の初期はほぼ無症状です。糖尿病が進行すると、合併症という形で症状が現れます。合併症は急性と慢性に分けられます。

急性の合併症

インスリンが不足し、高血糖の状態が続くと口の乾きやすく、そのために水分を多く摂るようになります。その一方、尿が多量に出るようになり、体が大変気だるくなります。2世紀に後漢の張仲景は、「金匱要略方論」に糖尿病のことを「消渇」と記載しており、「消渇」は「口渇」と「多尿」を主体とする病態としています。また、同じく 2世紀にローマ帝国・カッパドキアのAretaeusは、「急性および慢性病の原因と症状」に多尿を呈する糖尿病を「流れ出る(サイフォン;διαβητηε)」と表現しており、糖尿病(diabetes)の語源と考えられています。

糖尿病性ケトアシドーシス

糖尿病の人の肝臓では、インスリンの働きかけが悪くなることで栄養としてブドウ糖を利用出来なくなります。替わりに、脂肪を分解することでエネルギーを獲得しようとするのですが、インスリンが不足した状態では強酸の「ケトン体」が生じやすくなります。その結果、血液が酸性に傾き、「ケトアシド-シス」と呼ばれる状態に陥ります。ケトアシドーシスでは、息苦しさを覚え、吐き気や腹痛を来しながら意識が混濁し、適切な治療を受けても死に至る場合があります。

高浸透圧高血糖状態

感染症や、脳卒中、副腎皮質ステロイド薬および利尿薬の頻用などが原因となります。著しい高血糖と水分の摂取不足の結果、脳内の血液循環が悪化して脳神経細胞が脱水に陥り意識障害を引き起こります。2型糖尿病の高齢者に多くみられ、死亡率は16.0%*と効率です。
 * Diabetes Res Clin Pract 2011; 94: 172-179

慢性の合併症

全身の大小様々な血管に悪影響を及ぼすのが糖尿病の特徴です。脳梗塞や、狭心症、心筋梗塞、下肢などの血管障害は「大血管症(Macro Angiopathy)」と呼ばれ、糖尿病患者さんに併存する高血圧や脂質異常症(高脂血症)と共に引き起こします。

一方、糖尿病性「網膜症」や、「腎症」、「神経障害」などの糖尿病固有の合併症は、末梢血管の障害によって生じます(細小血管症:Micro Angiopathy)。細小血管症は、高血糖状態が改善されずに長期間が経過する程に発症進展しやすいことが特徴です。軽症のうちに早期治療を行うと細小血管症の改善は見込めますが、進行したのちには高血糖状態が解消されても改善しない場合もあります。

神経障害

主に両側の足先、足底から始める末梢神経障害(糖尿病性多発神経障害)では、しびれなどの知覚異常やこむらがえりなどの症状が見られます。一方で、触覚や圧覚、位置覚、振動覚などのさまざまな感覚が鈍くなり、感染症や血行不良への対処が遅れる為に、壊疽(えそ)を引き起こします。この神経障害の悪化には喫煙や、高血圧、脂質異常(高脂血症)、肥満も関わります。また、心臓や胃腸などの内臓のはたらきに係る自律神経が障害されると、立ちくらみ(起立性低血圧)、排尿障害や残尿(無力性膀胱)、勃起不全や男性不妊(逆行性射精)、慢性的な吐き気や腹部の膨満感を覚え(胃不全麻痺)、頑固な便秘・下痢が交互に生じるようになります。更には、突然死の原因になる無自覚低血糖を引き起こします。

網膜症

眼底(眼球の内側、眼の奥)には「網膜」と呼ばれる脳の視神経に連なる組織があります。わが国の糖尿病性網膜症の発症率は年間約4%*と報告されており、緑内障に次ぐ成人後失明の原因疾患として挙げられています。糖尿病性網膜症は、糖尿病の発症後10年程度で合併し、物を見る網膜の中心部(黄斑部)に病変が及ばない限り、自覚症状が無いまま進行します。そして、眼球内の大出血(硝子体出血)やそれに続く網膜剥離などの重症で急激に視力が低下します。その為、糖尿病の患者さんでは定期的な眼科受診、いわば「目の健康診断(病気を見つけること)」が大切です。
 * Diabetologia 2011; 54: 2288-2294

腎症

従来から「糖尿病性腎症」と呼ばれる糖尿病固有の腎臓病は、蛋白尿(特にアルブミン尿)を特徴として、糖尿病の発症から5-10年で出現するとされてきました。年間新規に透析療法が開始される最多疾患であり、慢性透析患者の主要疾患です(各々、約38,500人全体の40.7%, 約33万人全体の39.5%)*

しかし、近年はアルブミン尿が出現するよりも早く、加齢や高血圧による動脈硬化(腎硬化)によって腎臓のはたらきが低下するケースが増加してきました。これは、糖尿病治療の進歩によって血糖コントロールが良好になることで、アルブミン尿を発症する時期が後退した為と考えられています。そこで、糖尿病患者さんに併発する高血圧や、肥満、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症に関連する腎臓病を内包する「糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease: DKD)」という概念が提唱されるようになりました。

そして、糖尿病性腎症の患者さんにおいて、血糖コントロールのみならず高血圧や脂質異常症(高脂血症)などの併存症の治療も積極的に行うことで、腎症の進展抑止だけでは無く、脳卒中や、狭心症、心筋梗塞などの「大血管症(Macro Angiopathy)」の発症も抑止することが明らかになっています#。

つまり、糖尿病性腎症・糖尿病性腎臓病の治療は、単に血糖値を改善させるだけでは無く、併存症の治療と共に行うことが重要です。
 * 透析会誌 2021; 54: 611-657
 # Diabetologia 2016; 59: 2298-2307

今回ご紹介した糖尿病の合併症に加えて、感染症や、歯周病、骨粗鬆症、認知症などの発症進展にも糖尿病は関与します。また、糖尿病患者さんの死因の第一位はがんであることを述べておきます。

2001-2010年の10年間の調査#では、日本人の糖尿病患者さんの死因の第一位はがん(38.3%)であり、次に感染症(17%)が続き、心筋梗塞や脳卒中、慢性腎不全などの血管障害は第三位(13.4%)となっています。この中で、がん(特に肺がん・肝がん・膵がん)は増加傾向にあります。そのため、日本人の糖尿病患者さんの平均寿命(男性71.4歳、女性75.1歳)は、男女共に同時期の日本人平均(男性79.6歳、女性86.3歳)より低くなっています。

一方、心筋梗塞や脳卒中による死亡割合は減少傾向にあり(各々4.8%と6.6%)、日本人全般(各々6.5%と10.3%)より少なくなっています。また、2001-2010年の10年間における日本人の糖尿病患者さんの平均寿命は、前10年間と比較して男性で3.4歳、女性では3.5歳ずつ伸びています。これは、日本人全般の伸長(男性2.0歳、女性1.7歳)よりも大きいことから、糖尿病治療の進歩によるものと考えられています。

糖尿病診療は、私たちの生命予後に係る多くの疾病の早期発見と治療に携わることに他なりません。
 * Journal of Diabetes Investigation 2017; 8: 397-410

糖尿病の治療法

早期からの薬物治療

糖尿病は、早期治療が重要です。かつてイギリスで新規に診断された2型糖尿病の患者さんを対象に実施された研究をご紹介します。インスリン注射や経口糖尿病薬を治療に取り入れたグループ(強化療法群)と、食事療法のみで治療開始後に血糖値が改善しなかった場合に薬物治療を追加したグループ(従来療法群)との間で、血糖値の改善や合併症の発症率を比較した試験(UK Prospective Diabetes Study: UKPDS)です。

10年間の試験結果では、血糖値の指標であるHbA1c値と糖尿病固有の細小血管症(網膜症・腎症・神経障害)の発症リスクが、従来療法群より強化療法群において統計学的な有意差を以て減少(-25%)していることが分かりました*#

その後、対象患者さんの治療方法が主治医に一任され、1年後以降は強化療法群と従来療法群のHbA1c値が同等になりました。しかし、一任から10年後(初めから20年後)の追跡結果は、強化療法群に属していた患者さんにおける細小血管症の発症リスクは、従来療法群に属していた患者さんより低いままでした(24%減少)。さらに、心筋梗塞や総死亡のリスク減少がこの時点で統計学上の有意差を示すようになり(各々、15%と13%ずつ減少)、「legacy effect(遺産効果)」と呼ばれるようになりました$

また、本試験では肥満の2型糖尿病患者さんには、メトホルミンという内服薬が用いられていました。そして、メトホルミン服用群では、従来療法群よりも心筋梗塞や脳卒中などの大血管症の発症や総死亡のリスクが、初めの10年間の段階から有意に減少していました#

そして、UKPDS試験が開始されて以来30年以上を経て、DPP4阻害薬や、GLP-1受容体作動薬、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬、また、SGLT2阻害薬やイメグリミンなどの新しい医薬品が、糖尿病治療の主翼を担いつつあります。これら医薬品は、インスリンやスルホニルウレア(SU)薬に代表される従来の糖尿病治療薬と比較して、低血糖を起こしにくいことが共通の特徴です。また各々は、日本人のようにインスリンを分泌する力が生来少ない遺伝的特徴を持つ人や、皮下脂肪の容量が少なく内臓脂肪を蓄積しやすいために軽度の肥満でもインスリンが効きづらくなる体質の人に向く、さらに、腎臓を保護し、心筋梗塞の発症、心不全による入院、脳卒中や、これら心血管病による死亡を減少させる、そして、メトホルミンと同様に多面的かつ未知の効果が期待される医薬品です。

生活習慣病の治療では、薬物治療を避けたい患者さんの意向を伺う機会が多いのですが、糖尿病の治療においては、薬物治療が特に重要と思われます。
 * Lancet 1998; 3528: 837-853
 # Lancet 1998; 3528: 854-865
 $ N Engl J Med2008; 359: 1577-1589

当院ではWebサイトから来院の予約ができます

糖尿病診療

スタッフの紹介

診療カレンダー

看護スタッフ募集

フォトギャラリー

健康サポート

パークシティクリニック

〒212-0054
川崎市幸区小倉1-1
パークシティ新川崎
クリニック棟217
電話:044-541-6161

詳しい地図を見る

診療時間

午前 09:00 ~ 12:00
午後 15:00 ~ 18:00

休診日

月曜午後(嘱託医務などの為)
水曜・日曜・祝祭日